週末、耳の院から帰宅して、いつものようにジュノへ向かう出支度をしているところへ顔見知りのミスラ護民官が飛び込んできた。
「コルモル先生、事件ですにゃ(*^−^)」
「むむむ、なんだ嬉しそうな顔しおって。物盗りか人死にか?ワシは忙しいのだ」
コルモル先生は手足をバタつかせて抗議したが、護民官のミスラはいっかな意に介する気配も見せず、嬉しそうに出動を要請する。
「お手間は取らせませんです(*゚−゚)
水の区の商人ホノイゴモイさんのお屋敷で窃盗事件ですにゃ(*゚〜゚)
ご同行イタダキ知恵を貸して欲しいのです(*^−^)」
「普通それを手間といわんかね?」
コルモル先生はあきれ顔で護民官を見上げた。
「んで?状況を説明したまえ」
コルモル先生は鞄に旅装を詰め込む手を休めず訊いた。
「ホノイゴモイ氏の屋敷から、いついっか何が盗まれたのかね?」
「それが分からないのですにゃあ(>∇<)ノ」
手を滑らせたコルモル先生は、半身を鞄の中に投じた。
ゆっくり身を起こし、怒りに震える手で頭に被さった白サブリガをむしりとると不気味に静かな口調で
「それで?犯人の心当たりは」
「もうタイーホしてますにゃあ(´▽`*)」
護民官は誇らしげに言った。
コルモル先生は手にした白サブリガを引き裂きながら低い声で
「君はワシをからかいに来たのかね?」
「とーんでもありませんにゃあ(>∇<)ノシ」
護民官は恥ずかしそうに顔を伏せて手を振った。
「犯人は、ホノイゴモイさんが馘首(クビ)にした執事ですにゃあ。
でも、彼が何を盗ったのかが分からないンですにゃあ。
それで、困っているのですにゃあ。
ホノイゴモイさんは、かんかんに怒っているのですです」
「ワシにはさっぱり事情が飲み込めんよ」
コルモル先生は詰め込み直した鞄の蓋に乗って留め金を掛けながら言った。
「とにかく時間がもったいない。現場に赴こうよ」
手早くデジョンを唱えると、効果光の中にミスラの護民官を巻き込んだ。
「良い子の冒険者はマネしちゃダメじゃぞ^^」
そういうと、金気臭いイオンの香りを残して空間転移した。
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ウィンダス水の区:ホノイゴモイ邸
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「むほつ、名探偵を連れてくると言うから期待して待っておれば、なんだ!?
ウィンダスの3バカセの一人ではないかwww」
尖がりタルには珍しく、眉毛の吊り上った男が部屋の真ん中で地団駄踏んでハネながら喚き散らしている。
いわずと知れた「想像を絶する」金満家ホノイゴモイ氏その人である。
「黙らっしゃい!いい年をして『ご足労賜りまして恐縮です』の挨拶もできんのかっ?」
コルモル博士は手にした連邦賢者制式杖でホノイゴモイの頭を殴りつけた。
「らっらっ?先生!無茶したらダメにゃ(><)」
慌ててコルモル先生を取り押さえるミスラ護民官。
「いきなり被害者を殴りつける探偵なんて前代未聞にゃ」
「やかましいわ!お前も逝っとこか?」
ミスラの胸の中でジタバタと暴れるコルモル先生。
「@@いったいなんだ?この男は!狂人かっ?」
目を回しながらも、ホノイゴモイが喚く。口達者な男だ。
「あつつ、血だ!」額にやった手を見て叫ぶ。
「もったいない!」
「あん?」
「にゃ?」
呆けた声を漏らした二人の前で、ホノイゴモイ氏は掌についた血をぺろぺろ嘗め取りはじめた。
「ワシは今…かーるい感動を覚えている…」とコルモル先生。
「うちもですにゃ…」
「『想像を絶する』金満家の、『想像を絶する』ところとは、まさにコレじゃったのじゃね…」
「どケチですにゃ…」
「わが身に入ったものはトゲでも抜かない。出すものは息でもイヤだ。それじゃ苦しいんで、ちょっとずつ出してる…って、そういう御仁じゃな」
「はいです…」
などと囁き交わす二人を横目でじろりと睨(ね)め上げて、ホノイゴモイ氏は
「ゴルア!そこの二人!抱き合っていちゃついてる暇があったら事件を解決せんくわっ」
「…も一発殴っとこうか?」
「やめてくださいにゃ(><)」
コルモル先生は堪忍袋の緒を締め直しながらホノイゴモイに訊いた。
「あんたは何かを盗られたと言う。犯人として元使用人を捕まえたと言う。
おかしな話じゃないかね?犯人を捕まえた時点で盗られたものも判明するじゃろうに」
「物分りの悪い男だな。ほんとに学者なのか?」
ホノイゴモイ氏は半眼になってコルモル先生を見つめた。
「あの男は長年ワシが眼を掛けてやったにもかかわらず、ワシが暇を出したくらいのことで逆恨みして、ワシの大切なコレクション倉庫から何かを持ち出したのだ!」
「きっぱりと断言するものじゃなwwwどうして盗ったと分かるのかね?」
「ワシが見たからだ!この目で!
ヤツがワシのコレクション倉庫の中でパタンと鞄の蓋を閉めるのを」
「は?あ」
「そしてワシと目線が合うと、きゃつめ悪びれもせずニンマリと笑いおった!」
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ホノイゴモイ氏の大事なもの倉庫
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「こりゃ…また…」と息を呑むコルモル先生。
天井までうず高く積み上げられた四海三国の物産の山を見回し「見事な・・・」と溜め息をついた。
「どうだ?驚いたか」
「見事な…までのガラクタの山じゃ…」
「このゴミの山から何かが無くなっても、分からないにゃあ」
「何だと!?この貧乏人どもが!貴様らごときにはこのコレクションの価値が分からんのだ。冒険者に金をくれてやり世界中の貴重な物産を取り寄せたのだぞ」
「アンタでも金を出すことはあるのじゃな(´・ω・`)」
感心したようにコルモル先生が呟くと、何を勘違いしたかホノイゴモイ氏は胸をそびやかして
「ワシは死に金は使わん主義だ。その代わりタメになること役立つことへの出資は惜しまん」
「ホントかね…」
コルモル先生は片眉を吊り上げてミスラの護民官を見上げた。
護民官も片眉を吊り上げて苦笑している。
「とにかくこの宝の山の中から、ナンジャ・モンジャの奴めは何かを鞄に詰め込んで、現行犯でワシに取り押さえられたわけだ」
「ほう?で、その鞄には何が入っていた?」
コルモル先生はガラクタの山の中から歪(いびつ)な形の壷を取り上げると中を覗き込みながら訊いた。
「・・・何も・・・」と答えるホノイゴモイ氏。
「声が小さぁあああああい!」
「何も入ってはおらなんだ!」
大声を出し合って「ぜいぜい」と肩で呼吸し睨み合う二人のタル老人。
やがてコルモル先生が口を開いた。
「落ち着いて、よう考えるのじゃ。これでは犯罪が成立せんじゃろ?」
「だからワシも警察沙汰にはせんで、内々にことを済ませようとしておるのだ」
「そうなのか?」とミスラ護民官を振り返るコルモル先生。
「まだ上司には報告してないのです(>∇<)ノ」
「いい加減な猫じゃなあwwwまあ、ええわい。ひと一人こんなわけの分からん老人のたわ言で罪に落とされては気の毒じゃ」
コルモル先生は壷を頭に被ると見栄をきった。
「この事件!ワシがスっきりシャっきり解き明かしてくれるわ!」
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ナンジャ・モンジャへの事情聴取
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容疑者として軟禁されていたナンジャ・モンジャは、実直を絵に描いたような人柄の後ろ縛りタルだった。
「事件に関係があるかどうか分からんが、君が解雇された理由をワシに打ち明けてくれんかね」
親身な口調で問うコルモル先生に、ナンジャ・モンジャは落ち着いて答えた。
「私に心当たりはございませんが、ホノイゴモイ氏が解雇するからには、私に落ち度があってのことなのでございましょう」
「君はこの家に勤めて長いのかね?」
「先代よりお仕え申し上げておりました」
「これは、お見逸れした。忠臣ではないか」
「さように仰っていただけると、恐縮でございます」
「では、なおのこと君とホノイゴモイ氏との間に生じた対立が、今回の騒動を招いたのだと、他人は理解するしかないね」
「まことに身の不徳のいたすところでございます」
「長年勤続した家から記念に何かを持ち出そうとした、世間はそう考えて勝手に納得するだろう」
「とかく世人の口に戸は立てられませんから」
「どうあっても、真相を語るつもりがないのだね」
コルモル先生は、いわゆる証拠物件の鞄をパタパタ開閉しながら言った。
この男の潔い落ち着き振りから、法律の網にかかるような悪事を犯していないことだけは読み取れた。
しかし、大切なことを隠している。
それを明らかにしなければ、この男の潔白は証明できまい。
思索にふけるにつれ、手は勝手にかばんの蓋をぱたーりぱたーり。
それを見ていたミスラ護民官が叫んだ。
「うにゃっ(>∇<)ノ謎が解けたのです!」
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